フラグメント社会では創造性は失われてしまったので、文化のありようは21世紀半ばあたりで停滞してしまっている。

地球社会の文化

2220年代の先進国では、労働階級の休息は禁止されている。工場で生産され、30年足らずで耐用期限を超える有機ロボットでしかない労働者は、経済活動から完全に切り離された存在であり、娯楽や創作などの文化とは生涯触れる事は無い。

その一方、支配層は絵画や音楽、美食などに囲まれた生活を送っているが、それはあくまで権力を誇示し資産を運用する手段でしかなく、本当の意味で芸術や芸能を理解している者はもはや誰もいない。23世紀の地球における芸術や芸能とは、単純に贅を凝らしたものが金銭的価値を得て、それをステータスとして消費するだけの仕組みでしかないのである。権力者の虚栄心を満たし実利に叶う古く高尚な装飾品は保全され続けているものの、創造性を持つ遺伝子を淘汰してしまったため、新たな芸術作品が生まれる事は無くなっている。

習慣として文化は維持されているものの、本質的には形骸化しているのが地球社会の現状である。

宇宙社会の文化

短いスパンで国家が興亡を繰り返す宇宙社会において、フラグメント制度は半ば破綻している。

宇宙社会の住人はおしなべてエンジニアの末裔であるので、個人レベルでのコミュニティ内におけるローカルな伝統や文化は発達しても、社会全体のありように影響を及ぼすオピニオンリーダーは現れなかった。

音楽や物語を原型とした原始宗教の発生の兆候はわずかに見られるものの、民族的アイデンティティや国家に対する帰属意識を刷り込むために権力が企画した人工宗教によって抑圧されている。この人工宗教は多くの場合キリスト教のフレーズを表面的になぞった菲薄なものではあるが、安易でわかりやすいドグマは大衆に馴染みやすく、宇宙社会を運営するための柱の一つとなっている。