アドバンスド機は初期から人工黒体機関を搭載していた。

人工黒体とは、人工的に生成したコラプサーマテリアル、すなわち人工ブラックホールの公的な呼称である。

なぜわかりやすく人工ブラックホールと呼ばず、人工黒体などと持って回った名前が付けられたかというと、それは単に「ブラックホール」という剣呑な語感が世論に不要な混乱を招かぬよう配慮されたためである。

人工黒体の主な用途としては、まず発電機関が挙げられる。人工黒体機関の種類は、降着円盤の運動エネルギーを利用するフライホイール型と、物質を投下してホーキング輻射から熱エネルギーを回収する古典的熱電変換型、そしてシュヴァルツシルト半径を同期させている黒体連星のエルゴ領域内で生じる重力偏差から位置エネルギーを取り出すタービン型の3つが存在する。

特に三つ目のタービン型黒体機関は人類初の実用型半永久機関であるため恒星間播種船などの大型艦艇の主機として使用されているが、しかしその構造材には人工黒体以上に製造が困難なモノポリウムを必要としており、費用対効果は極めて低い水準に留まっている。

2200年代の第三世代ベーシックKRVの推進器には、人工黒体機関を利用したバサードラムジェットエンジンが使用されている。これは大気圏内外を問わず噴射可能なジェットエンジンであり、原子力ロケットエンジンと比較して素晴らしく燃料消費率に優れている。タービン型黒体機関に比して製造費や維持コストも低いため、近年では民間船舶などにも多く使用されている。