量子兵器を試験的に搭載したエクストラ機。

量子制御技術は巨視的には無から有を生み出しているように見える事から、魔法に例えられる事もある。

その歴史は古く、人類が炎を扱うすべを手にした時からすでに存在していたとも言われている。古代の人々はその力を、仕組みは分からずとも使いこなし、雨乞いや狩猟、あるいは戦争に用いていた。

量子制御技術とは人間の脳をEPRエンジンとして使用する事でトンネル効果を任意に生じさせる技能であり、その習得の可否は個々人の生得的なニューロン構造に依る。さらには長年にわたる量子制御技術者への宗教弾圧や工業力の発達による必要性の低下により量子制御技術のノウハウは徐々に失われて行き、近代に至るとその存在は単なる根も葉もないオカルトとして見なされるようになった。

これらの失われつつある技術を科学的に整理し体系化したのが、21世紀初頭に運営されていた国際洋上実験都市アーモロートの技術者たちであった。彼らはもともと量子テレポート通信機の研究を行っており、その過程でヒト脳に備わるEPRエンジンの存在を発見したのである。

アーモロートでは超微細技術を用いた脳の分析や拡張の研究が積極的に行われており、EPRエンジン構造を有していないヒト脳へ後天的に量子制御技術を与える方法も模索された。アーモロートの研究者たちは、いずれは万人へ量子制御技術を授けることを目指していたのである。

それに危機感を抱いたのがアーモロートの主なスポンサーの一つである互助組織であった。彼らは量子制御技術により個人が分を超えた力を持つ事を望まなかったのだ。互助組織は各国に働きかけ、アーモロートがテロ支援組織であるというレッテルを貼付け、追求させた。

かくして世界中から制裁されたアーモロートはあえなく瓦解し、その本土は第四海堡として日米に接収されてしまったのである。

量子制御技術の普及は果たされなかったが、しかしアーモロートの遺した膨大で有用なデータは全て互助組織に回収された。それらの技術は必要に応じて各国へ供給され、軍事などの世界秩序維持を目的とした行為に限って用いられていくこととなる。

特にアーモロートの遺産兵器たる量子甲冑はその強力さと運用性の高さにより比較的頻繁に持ち出されており、21世紀半ばから現在に至るまでに発生した数多くの歴史的事件の背景にはほぼ確実に当機体による何らかの工作が行われていると推測されている。

もちろん、量子兵器とは量子甲冑のみを示すものではない。

アドバンスドやヴァンガードなどの長期にわたり宇宙空間にて運用される兵器群には、真空からエネルギーを機材の容量が許す限り無尽蔵に取り出し、それを動力源に用いたり、あるいは直接火力として放射したりするEPR兵器システムが搭載されている。また、アーモロート残党組織ユークロニアが非合法に開発したEPR制御電脳が闇市場に多く流通しており、サイバネインフラを導入している先進国の安全保障を大きく損ねている。