民生品を違法改造したテクニカル。外見上の特徴としてレーダードームが増設されている。

KRVとはいかなる地形へも瞬時に離着陸が可能な空中管制機である。かつてはその機械的複雑さから補修や維持には多大なコストを要していたが、2220年代現在ではマイクロマシンによる自律復元システムが普及した事により、運用のハードルは大きく低下している。また、都市間紛争の激化により多くのPMCが台頭したことでKRVの需要が急激に増加し、大量生産の体制が整った結果、製造費は戦前と比較して大幅に低下している。

以上の点をふまえ、近年ではKRVは世界中の紛争地帯へ供給されており、正規軍、PMC、非正規武装組織を問わず戦力の中核として運用されている。もはやKRVシステムは現代軍事の屋台骨の役割を果たしているといっても過言ではない存在となっているのである。

このような状況の推移によりKRVは今やあらゆる戦場に遍在する兵器となっており、その有り様はかつてのAK-47のように「貧者の大量破壊兵器」と例えられる事もある。

しかし、その例えはあまり正しい表現ではない。

カラシニコフが普及したのは安価さや頑丈さ、操作の簡便さ、そして生産性の高さゆえである。ベーシックの製造コストは確かに軒並み低下しつつあり、運用性の高さも特筆すべきものがあったが、しかし個人の職人が手作業で製造できるような素朴な小銃と同じ次元で語るにはあまりにも無理がある。どんなに粗製濫造された旧型ベーシックであっても、何の後ろ盾も無い一個人が購入し管理できるほど安いものではない。まずベーシックの操縦にはサイバネ化と高度な訓練が不可欠であり、兵隊崩れの傭兵ならばともかく、ただのマフィアやゲリラの手には余る代物なのである。そもそもベーシックとは単体ではなくオートマトン群を指揮下に置く事で初めて意義を持つ兵器であり、そのオートマトン群の導入コストを計上すればKRV運用が決して手軽なものではない事は誰の目にも明らかにできるだろう。

KRVがこれほど普及したのはそのコンセプトが現代軍事戦略のトレンドにマッチした為であり、KRVの存在自体が低強度紛争の蔓延を後押ししているわけではないのだ。

ただ、民生品を違法改造したテクニカルKRVなどに限っては、貧困層であっても決して手が届かない訳でもない。もちろんテクニカルではオートマトンを制御する事も出来ないし、単純にハードウェア的に貧弱であるため、ベーシックと同列に扱う事は出来ないものの、その存在が治安の悪化を招いている事は確かな事実である。

二極化する命の価値

上記の通り、KRVの配備には膨大なコストを要する。軍隊が適切な戦略に基づきKRVを運用するには、人員や設備にもそれなりの投資を費やす必要があるのだ。正規軍のKRVアビエイターは同質量の金塊よりも高価な資材であり、存在自体が機密の塊でもある。KRVアビエイターの損失は軍隊にとって大きな痛手であり、それは可能な限り避けなければならない。

一方、サイバネ処置も満足に受ける事が出来ない貧しい国の軍隊は、テクニカルなどの安価な兵器を大量に投入することで先進国に対抗している。誘拐同然に徴用した少年兵たちを次から次へと使い捨て、社会のリソースを全て軍事に費やすことでかろうじて生存し得ているのである。

貧富の差はなおも拡大し続けており、戦場における命のコストは明確に二極化している。それがさらなる絶望と憎悪を煽り、戦争ビジネスを駆動させるのである。