KRVの開発は半世紀以上もの試行錯誤を経てなされたものであり、歴史の闇に人知れず消えていった試作機も多数存在する。

キネティック・ロボティクス・ヴィークルと名づけられたこの搭乗型陸上ロボット車輌は、多足歩行を行う乗用兵器である。

本来の意味において、軍用ロボットとは無人兵器のことを示すものである。具体的にはUAVや歩兵支援車両などがそれに相当する。

しかし、KRVに含まれるロボティクスという言葉は少し上記のものとはニュアンスが異なり、機械肢とその制御に関する技術の意味を持つ。KRVとは、歩行肢を有するヴィークルの総称なのである。

開発当初の第一世代型は、車両の運用が難しい都市部や山岳地などの極端な不整地にて潜伏し活動するゲリラを標的とすることを想定する、地形を選ばない移動砲台として開発された。あらゆるフィールドにて重火力陣地を構築することを可能とし、神出鬼没のゲリラ組織に対して優勢を保障する、非対称戦争の主役とも言うべき存在となったのである。

以上の説明の通り、KRVは本来自走砲架として運用されることを前提としていたのだが、その巨体ゆえに捕捉され易く、ともすれば近距離で直接戦闘を行う状況に陥ることも多かった。自衛用の機銃は有していたもののその機械的な脆弱さはいかんともしがたく、特にロケット砲などを搭載したテクニカルに対して力不足であることは否めなかった。

そういったKRVの欠点を突いた戦術が敵武装勢力に浸透し始め、多国籍軍KRV部隊に無視できない損害が生じ始めた頃、後のKRV開発の契機となる事件が起きる。

戦争終結宣言直前のその日、山中のヘリポートにて積み下ろし中のKRVが敵機甲部隊に襲撃されるという状況が発生した。KRVは装弾数の少なさや燃費の悪さから、航空機による絶え間ない輸送支援が必須とされている。そのため山岳地帯などの不整地でも即座に補給または回収し撤退できるよう、KRVと平行する形で新型の回転翼機が同時に配備されている。積み下ろし中に襲撃を受けたKRVは上記のトランスポーターに懸架された状態で敵を迎撃する羽目になるのだが、しかしその変則的態勢が逆に部隊の血路を開くことになった。ローターの推力による縦方向の機動性とKRVの広い射角や俊敏な旋回性能が組み合わせることで、峻厳な山岳地帯を自在に跳ね回り敵機甲部隊を一機で翻弄するという前代未聞の戦術機動を敢行しそれを成し遂げたのである。もちろん懸架中に主砲を使用することは出来ないため機銃による牽制以上の真似は出来なかったが、友軍が脱出する時間を稼ぐことには成功した。

この戦訓に基づき、KRVに対し限定的ながらも上昇能力を持たせる試みが現場レベルで行われるようになる。

そしてKRV計画から10年後の2020年。アウトリガーの延長でしかなかった脚部にホイールと飛行用の推進器を設けることにより、大きく運用の幅を広げた第二世代型KRVが登場する。それらは第一世代型KRVとは次元の異なる戦闘力を発揮し、主力戦車や攻撃ヘリを圧倒するほどの性能を有していた。

この第二世代型は、最前線において無人兵器に同行しリアルタイムで管制を行うための、いわば移動司令部として開発された。その一方で、対戦車駆逐戦闘を旨とする攻性の機動兵器としての側面も持ち、第一世代とは全く異なる運用を成された。

特に、軍事がグランドデザインに考慮されなかった日本の都市において、KRVはその特性を効率的に発揮することになった。