分子機械の導入は高度機械の開発コストを大幅に省力化した。

超微細技術とは、分子レベルのスケールで物質を制御する技術のことである。

古くから工業や医療に不可欠な技術であり、現在では分子アセンブラーを用いる事により省力的かつ短時間で分子レベルからの加工が可能となっている。

万能機械への夢

分子や原子を自由に組み替えることで万物を創造しうる機械という概念は、20世紀の半ばにはすでに存在しており、それの実現を目指して巨額の富と時間が費やされた時代もあった。

このような、かつて夢見られた万能機械は限定的にではあるが完成はしており、星間船舶などに搭載されている物質合成機がそれにあたる。

しかし物質合成機はその万能性自体が極めて危険である事(*1)、膨大な量の分子アセンブラーを制御する為に要するコストの高さ(*2)などの問題を抱えており、法的な諸々のハードルもあり、幸か不幸か一般社会にはほとんど流通していない。

*1 正しく設計を行えば、無から人間や貨幣を創造することも可能である事など。 *2 ペンを一本合成するためには小型マスドライバー投射時と同等の電力を要し、人体生成ともなればそれこそ国家予算を費やすほどの膨大な電力費用がなければ実行不能であると言われている。これは、数億もの分子アセンブラーを個別に常時テレポートさせながら稼働させる必要がある為である。頭の先から二次元的に人間を分子合成しても、失血死した死体が出来上がるだけなのだ。

ナノテクノロジーの危険性

21世紀初頭の時点より、超微細技術を用いたナノ粒子による健康被害や環境破壊は問題となっており、2220年代においてもそれは変わらない。ナノマシンが肺に蓄積されたり、血管に溶けて脳に至ったりした場合、最悪死に至る事もある。特にナノ医療やサイバネが普及していない貧困層ではナノ毒性被害が常態化しており、治安や経済に深刻な悪影響を及ぼしている。

上記のようなナノマシン公害を沈静化する為に様々な団体がナノテク規制の必要を訴えているが、各産業界の圧力により黙殺されているのが現状である。

KRVへの利用

第一世代KRVが運用される上で最もネックとなったのがその機械的脆弱性であり、その問題を第二世代において克服せしめたのが分子アセンブラーの実用化であった。第二世代ベーシックは、疲労や摩耗が激しい消耗部品に分子アセンブラー構造材を導入する事で、第一世代機と比較して整備性を大きく向上させる事が出来たのである。もちろん質量保存の法則を無視できる訳ではないため、構造材の修復や復元には分子アセンブラーの「エサ」となる金属粉末を補給する必要があるが、部品を製造し運搬するよりは安価に機体を維持する事が出来る。

第三世代ベーシックでは機体のほぼ全ての部品が分子アセンブラーで構成されており、例え宇宙空間で孤立してもパサードラムジェットエンジンのサブシステムである原子フィルターで構造材を収集することができる。このナノ保守システムの標準装備により、第三世代機はアドバンスドに近いメンテフリー機能を実現しているのである。